新入社員の特徴と育成の在り方を考える
変化する新入社員の特徴
日本生産性本部が毎年発表している新入社員のタイプがありますが、2016年度の新入社員は「ドローン型」と命名されました。彼ら・彼女らは就活日程の変更や「オワハラ」のような大風にあおられながらも、無事、入社を迎えた社会人たちです。入社後は、昔のように技量が少ない分を時間や量でカバーするようなことはできず、夜間飛行(深夜残業)は厳しく規制され、上司の視界の範囲外では飛行できないようルールが敷かれています。こうして見ると、新入社員自身の特徴というよりも、社会環境や受け入れ側の企業を風刺した命名となっていることが今年の特徴と言えます。
当社では、今年も約1,000社のクライアント企業に新入社員研修を提供させていただきました。研修の最後に受講者である新入社員にアンケートのご協力を頂き、882社 3,931名から回答を得られました。今年で3年目となるこの意識調査ですが、例年からの変化として次の点が浮かび上がりました。
- (1)売り手市場を背景に志望通り就職でき、やる気に満ちている新入社員
- (2)男性は管理職不人気、相対的に「管理職より専門職」傾向が強まる
- (3)「楽しく仕事をしていたい」(男性)、「定時に帰りたい」(男女とも)層が増加
- (4)「リーダーシップ上司」の人気は下降傾向、求められる「優しく、相談できる上司」
もちろん、新入社員一人ひとりは異なっており、一様の型にはめることに抵抗はありますが、傾向としては理解しておくべきではないでしょうか。問題は、このような新入社員に対して、企業側はどのようなアプローチで育成を図るべきかです。
入社3年間はゴールデンエイジ
スポーツの世界で"ゴールデンエイジ"という言葉があります。これは、9歳~11歳頃の3年間のことを指し、この時期に基本の型や姿勢を身に付けさせないとトップアスリートに育ちにくいとされている期間です。同様の期間がビジネスパーソンにもあると考えられており、一般的にそれは入社から3年間と理解されています。入社後3年間でどのような上司・先輩に付き、どのような顧客を持ち、どのような仕事をこなし、何を学ぶかが、その後長く続く仕事人としてのキャリアを決定付けると言う専門家もいます。
ドラッカーは、「成果を上げる人と上げない人の差は才能ではなく、習慣的な姿勢や基礎的な方法が身に付いているかどうかの問題である」という主旨を述べています。『ビジョナリー・カンパニー4』では、変化の激しい時代こそ、正しい規律や習慣が偉大な成果を生み出す重要ファクターであることを、多くの事例を交えながら論じています。これらを踏まえると、新入社員の育成は仕事への正しい向き合い方、学び方、行動習慣を重視すべきと思われます。貴社の新入社員研修では、「ビジネスマナー」以外の「マインドセット」や「ビヘイビアセット」について、どのように扱っていらっしゃるでしょうか。
新入社員の組織社会化
新社会人が企業という新しい社会になじむには、相応の時間を必要とします。この「なじむ」「慣れる」という過程を「組織社会化」と呼びますが、組織社会化に要する時間は数カ月と言われています。いかに新入社員研修自体が充実した内容であったとしても、ニューカマーたちにとって研修の場は実際の職場とは異なる別環境です。研修ばかりに注力していると組織社会化の完了を遅らせてしまうリスクも考えられます。
こう考えると、新入社員研修は必要最低限にとどめ、逆に職場の受け入れ態勢の整備に傾注することが得策である可能性があります。新入社員の立ち上がりがスムースなある企業では、会社でサバイブできる程度のルールや決まり事についてのオリエンテーションにとどめ、なるべく早く職場に配属し、ブラザー制度などでカバーしています。「ブラザー」とは、仕事の技術的な面を教育するOJT担当者とは別に、よろず相談相手的な存在であり、コピーの取り方、ドレスコード、PCの使い方など細かな疑問に答える先輩社員です。部門会議参加後には、何が話し合われ、どのような用語が飛び交ったかを、少しの時間を取って整理します。新入社員からすると、困ったときに誰に相談すればよいのか明確なため、迷って抱えている時間が少なくなります。このよろず相談相手的な存在は、かつてはいわゆる一般内勤職が暗黙裡に担っていた役割と思われます。
貴社では、「新入社員の育成担当として誰を付けるか」について、どれくらい時間をかけて議論し、こだわっていらっしゃるでしょうか。人が成長する際の重要なファクターの1つは「人」、すなわち「誰と一緒に仕事をするか」です。先ほどマインドセットとビヘイビアセットについて記述しましたが、育成担当者がこれらを体現している先輩社員であれば理想的です。
真にやる気のある社員は何を望むか
最初の数年間、新卒の新入社員は生み出してくれる価値よりもコストが上回っています。よって、いかに早く一人前に育て、投資を回収するとともに継続的に成果を出してもらうかが、人事だけでなく企業としての課題です。その際、新入社員の中でもどの層を対象に育成プログラムを実施するかという点も検討すべきと思われます。
例えば、真に仕事に対してモチベーションが高い社員は、早く現場に配属され、リアルな仕事と生の顧客に対峙したいと思うでしょう。そして冷や汗をかきながらも1日を終え、不足していると悟った知識は貪欲に自ら吸収しにいきます。「自分にはここが足りない」「これを覚えなければまずい」といった自己認識が自発的な成長にドライブをかけます。
多くの企業で、新入社員研修という名のもとに、ある一定期間職場とは隔離された世界で研修が行われます。マナーとルールを重視する企業、自社の歴史や各部門の役割を教える企業、商品知識や業務知識を習得させる企業など、そのコンテンツは多様ですが、入社後一定期間を研修に費やすというやり方は変わっておらず、イノベーティブなことは起こっていない状況です。間もなく新年度、新入社員の受け入れ状況を振り返り、一度は根本的なことから再検討してみてもよいかもしれません。