新入社員研修の落とし穴とは?
新入社員研修 成功/失敗の基準とは?
「せっかく新入社員研修を受けさせても、言葉遣いやマナーがなっていない」など、お悩み(あきらめ!?)の人事ご担当者も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、新入社員研修そのものは、管理職研修やロジカルシンキングといった研修よりも効果が出やすい研修です。その理由は、新入社員ならではの特徴にあるのですが、理由を述べる前に、そもそも「新入社員研修の成功・失敗の基準」はどの辺りにあるのか、考えてみたいと思います。
一口に新入社員研修と言っても、そのスタイルは様々です。
「新入社員研修」と検索をすると、1日~2日の座学による研修もあれば、泊まり込みで1週間、1カ月と長期にわたって行われるものもあることが分かります。しかし、新入社員研修に対して求めることについて、企業による違いはあまり見られず、大きく次の4点に集約されます。
- 社会人としての心構えや、当たり前のビジネスマナーを理解、実践できるようになってほしい
- 業務に必要な専門知識・会社のルールを習得してほしい
- 会社の理念や価値観、その背景となる会社の歴史を理解してほしい
- 企業人、組織人としての振る舞いができるようになってほしい
「社会人として」「所属する企業の組織人として」という2つの切り口で新入社員研修の目的を捉えることができますが、多くの企業において優先されるのは前者、すなわち「社会人としての軸を作る」という目的です。したがって、「社会人としての軸を作ることができたかどうか」が新入社員研修の成功・失敗の基準になると言うことができます。
新入社員の特性「レディネス」と「経験前学習」
では、この「社会人としての軸」をどのようにして新入社員に作ればいいのでしょうか。 冒頭でもお伝えをしましたが、新入社員研修は管理職や他の若手・中堅社員を対象とした研修よりも、研修そのものは効果が出やすいという傾向があります。その理由は新入社員の2つの特徴にあります。
- ビジネスマナーや言葉遣いなど、社会人として必要なことを学ぶための準備が整っていること
- 「学ぶよりも教えてほしい」「仕事にあたる前に関連する知識を知っておきたい」など「答えを求める」こと
上記の2点はそれぞれ専門用語で「レディネス」と「経験前学習 」という言葉で説明されます。
何かを学ぶためには学習者本人が学べる状態であることが必要ですが、レディネスとは、このような身体的・知的・精神的に学習の準備が十分に整った状態のことを言います。
このレディネスの観点から考えると、「ビジネスマナー」や「社会人としての心構え」といったものは、これからの自分に必要なことが明らかであり、知らなければ恥をかく、学ばなければ損をするといった危機感があること、また、学ぶタイミングとしても非常に良いため、新入社員には新入社員研修で学ぶレディネスが形成されていると言えます。
新入社員研修においては、受講者である新人のレディネスを最大限利用して、「ビジネスマナー」や「社会人としての心構え」といったものを相手がイメージできるくらい具体的に伝えることがポイントです。
そしてもう一つ、答えを求める傾向に対して「経験前学習」(何か事にあたる前、つまり経験する前に学ぶ)という考え方があります。
経験前学習は情報化社会の産物と言われています。検索エンジンやスマートフォンの普及により、いつでもどこでも情報を集めることができるようになりました。飲み会などでも、行き当たりばったりではなく事前にPCやスマートフォンでお店の情報を検索し、調べてから行くというようになっています。このようなテクノロジーの進歩の影響もあり、何かをするなら「失敗したくない」「先に教えてほしい」という「答え」を求める特徴が現代の新入社員にはあります。
翻って、ビジネスの場面で考えると、新人から「そんなこと聞いていません!」「そんなこと言われてないので...」「先に教えておいてください!」といったセリフを耳にされたことはないでしょうか?
このような発言から読み取れるのは「事前に知っておきたい」、言い換えると「答えを求める」という新人の特徴です。これは、裏を返せば「答えを教えてあげると、それを基に動く」ということです。つまり、新入社員研修では原則となる答えを教えてあげることがポイントです。
以上から、新入社員の「レディネス」と「答えを求める」という2つの特徴を利用して、新入社員が知りたがる「社会人としての心構え」や「ビジネスマナー」を、現場で想定されるケースなどを用いてできるだけ具体的に伝えることで、新入社員研修そのものが効果的な研修となります。
ビジネスマナーの「上座下座」を例に挙げると、これまでの新入社員研修であれば「上座下座の原則は、入口から遠い所が上座である」という一般論を伝えるだけでしたが、ここで指導を終えるのではなく「見晴らしのいい会議室があり、下座から見た方が見晴らしがよいという場合、下座にお客さまを通してもよいのか」といった現実により即したケースで考えてもらうことが大切です。
このケースでは「よい」が一般的な答えになると思われますが、もう一歩踏み込んで、「席にご案内する時に、お客さまに対して『本来は下座ですが、見晴らしがよいこちらのお席をご案内いたします。どうぞお楽しみください』と一言添えましょう」といったことまで指導することが、より新入社員に即した指導と言えます。
以上が新入社員研修自体を学びの多いものにするポイントですが、実はこれだけでは、現場配属の後に現場から「マナーがなっていない」「言葉遣いがなっていない」といった声が上がる事態、つまり「研修で学んだことが実践できていない=社会人としての軸が作れていない」状況から逃れることはできません。「研修内容は素晴らしく、新入社員たちも真剣に受講していた」となれば育成のご担当者としては安心してしまいそうですが、ここに新入社員研修の落とし穴があります。
新入社員研修を失敗に終わらせないコツは「現場との共有」
新入社員研修に限らず、研修で学んだことを実践に移すのはなかなか難しい(行動が変化するまでには少なくとも6カ月かかるという理論もあります)ことで、残念ながら近道はありません。地道に、コツコツと、周りの人からのサポートなどでリマインドをかけることが必要です。
つまり、大切なのは現場に配属されてから。新入社員研修を成功させる=「新入社員に社会人としての軸を作る」コツは、現場の協力を得ることにあります。
具体的には、新入社員研修で新入社員が学んだ内容と同じ内容を現場にも共有しておくことです。そうすることで、新入研修後も研修の内容を基にしながら新入社員の育成ができます。
現場に新入社員研修の内容が共有されていれば、新入社員への指導においても「それ、新入社員研修で教わったよね?」あるいは、「新入社員研修で教わったと思うけど・・・」と指摘することができます。
このことによって、新入社員は「習ったことを活かすのはここだ」と知ることができレディネスが形成され、どうすればいいのかを学習することができます。また、「習ったこと」=「すでに答えを知っていること」となるので「聞いていませんでした」といった言い訳ができなくなり、新入社員が失敗に対して真摯に向き合うことができるようになります。
このように、新人だけでなくその後の配属先にも新入社員研修の内容を共有することで研修の効果を高め、新入社員に社会人としての軸を作ることができます。
いかがでしたでしょうか。貴社の新入社員研修と比較いただき参考になれば幸いです。