コミュニケーション能力向上の重要性
企業活動は「コミュニケーション」で成り立つ
まずは下の図をご覧ください。この図は企業活動において一人ひとりのビジネスパーソンが身に付けるべきスキルを、社会人としての経験年数と習得の難易度という2軸でプロットしたものです*1。新人、若手、中堅、ベテラン...と経験を積むにつれて様々なスキルが求められることが見て取れます。
*1 当社が提供する研修「人材開発プロフェッショナル養成コース」より抜粋
上の図では40個のビジネススキルを挙げていますが、一つ一つのスキルを細かく見ていくと、その多くが一人で完結するものではなく、何らかのコミュニケーションが発生するものであることが分かります。「挨拶」や「電話応対」「報連相」といった基本的なことから、難易度が高いものだと「情報発信」や「商品説明」というように、どれも相手の話を聞いたり相手に伝えたりと、人と人とのコミュニケーションによって成り立っています。中堅やベテランになっていくと、「後輩指導・部下育成」「コーチング」「チームビルド」などのさらに高度なスキルも必要になってきますが、これらも上司と部下のコミュニケーションによって成立するスキルだと言うことができます。さらに、「情報発信」という一つのスキルを例に見てみると、新人・若手の間は上司や目の前のお客さまなど特定の人を相手にするのに対し、役職が上がるにつれて他の部門や業界団体、地域社会、マスコミなどコミュニケーションの相手(=ステークホルダー)が広がっていくことが一般的です。
良好なコミュニケーションによって部下・後輩から信頼されていれば、スムーズな指導ができます。また、お客さまのニーズを的確にくみ取ることができれば新たなビジネスにつながります。このように、コミュニケーションはどの年代、どの階層にも必要な“仕事の基本”であり、企業活動は様々な“コミュニケーション”で成り立っていると言っても過言ではありません。
一方で、昨今はITツールの普及・活用などにより、コミュニケーション不全に陥っているという声をよく聞きます。例えば全く同じ内容でも、メールのみで伝える場合と、相手の顔を見て話す場合では伝わり方は違うものです。米国の心理学者、アルバート・メラビアン博士の研究などから、話し方や表情といった非言語要素によるコミュニケーションの重要性が分かっているように、対面でのやり取りが減ったことも、コミュニケーション不全の一因とされています。
企業活動が様々なコミュニケーションで成り立っていることを考えると、コミュニケーション不全が経営にもたらすリスクが大きくなるのは当然のことです。方向性・認識のズレ、作業効率やモチベーションの低下だけでなく、お客さまとの交渉決裂、さらには融資元や投資家からの信用低下...など、正確でない情報発信や伝達不足は大きなトラブルを引き起こしかねません。それほどコミュニケーションは大切なものなのです。
コミュニケーション能力向上のコツは「相手の視点」で考えること
コミュニケーション能力には様々なスキルが関係していることは冒頭でお伝えしたとおりで、業務におけるコミュニケーションの質がアップすれば生産性も組織力もアップし、業績向上にもつながります。コミュニケーション能力の向上は、個人にとっても組織にとってもプラスの効果を生み出します。
「コミュニケーション能力は生まれつきの才能だからどうしようもない」「コミュニケーションは人から教わるものではなく、自然と身に付けるものだ」と言う人もいますが、コミュニケーション能力は基本的に"技術"であり、トレーニングによって向上させることができます。以前のコラム で、コミュニケーション能力アップのコツは「相手の視点」で考えることとお伝えしました。今回は先ほどの図からいくつかのスキルをピックアップし、相手の視点に立つとは何に気を付けることなのか、自分目線のコミュニケーションにありがちな悪い例を挙げながら考えてみたいと思います。
【挨拶】
まずは、基本的な「挨拶」の場面を思い浮かべてみてください。特に初対面では、第一印象が大切です。視線(=相手の目を見ることで印象付ける)、表情(=親しみやすさ)、言葉遣い(=敬意を抱く気持ちを伝える)、姿勢(=自信にあふれた態度)などに気を付けることで、好印象を抱いてもらいやすくなり、その後のスムーズなやり取りにつながります。
自分目線のコミュニケーションの例:
- 朝から眠そうに見える、不機嫌そうに見える
- 惰性で挨拶を返しているように聞こえる
【報連相】
仕事を円滑に進めるために欠かせない「報連相」。押さえておくべきポイントは挙げたら切りがありませんが、タイミング(=相手の都合を確認する)、頻度(=こまめに報告する)、順序(=緊急性があるかなど、優先順位を意識する)、内容(=結論を先に伝える)、言葉の選択(=曖昧な表現を使わない)などを心掛けることで、意思疎通がうまくいくようになります。
自分目線のコミュニケーションの例:
- 自分が伝えたいことだけを報告する
- 「あの人なら分かってくれているはず」
- 「あの人は苦手だから今回は報告しなくてもいいや」
【プレゼンテーション】
多数の人に企画を提案する「プレゼンテーション」では、構成(=SDS法などの基本構成を用いる)、音声(=全員に聞こえる声の大きさやスピード、メリハリ)、視線(=パソコンやスクリーンに向かって話さない)、表情(=にこやかな笑顔)など、資料の作成と発表の両面から相手の視点を意識することで、分かりやすく信頼性のある情報提供、企画提案につながります。
自分目線のコミュニケーションの例:
- 「自分が言いたいことは言い切ったぞ」
- 内容を詰め込み過ぎて何を言いたいのか分からない
- パソコンの画面に向かって話している
【交渉・ヒアリング】
「交渉」や「ヒアリング」では、「相手の意見を引き出せず、話が広がらない」経験をしたことがある方も多いと思います。挨拶と同じように、視線や表情、言葉遣い、姿勢も相手は見ていますが、自己主張と傾聴のバランスや、答えやすい、話しやすい環境をつくり、相手の真意を読み取ることを心掛けると良いでしょう。
自分目線のコミュニケーションの例:
- 自分から有益な情報は出さずに質問ばかり
- 自分の主張を少しも譲らない
(個別のスキルについては、過去のコラムもご参照ください)
毎日の行動で意識したいコミュニケーションの目的
上述の例から見えてくるのは、「仕事におけるコミュニケーションには、仕事を前に進めるために『相手に狙いどおりに動いてもらう』という目的がある」ことです。つまり、相手の視点に立ったコミュニケーションとは、業務上の目的を達成するために用いる手段であり、コミュニケーションが自分目線になっている状態とは、本来の目的よりも自分の都合や気分を優先させた結果として行為自体が目的化してしまっていることを指すのです。
多くの業務にコミュニケーションが絡むことから、コミュニケーション力向上のためには、「果たしてこのコミュニケーションは目的にかなっているか?」を常に意識し、繰り返し実践していく必要があります。「いきなり実践するのは難しい!」という方は、あらかじめ知識をインプットできる研修を受講することも有効です。
当社では、コミュニケーション思考術といったコミュニケーションの基本をお伝えするものから、リスニングやプレゼンテーション、部下との接し方、交渉力といった個別のスキルに焦点を当てた研修、またスマートフォンなどのモバイル端末を使用した学びの場を提供し、多くの企業にご活用いただいています。