コンプライアンスを推進する確かな方法とは
コンプライアンスとは? 法令に違反しなければOK!?
顧客情報の漏えいや食品偽装問題、所得隠しにハラスメント...。これらは、コンプライアンスという言葉が一般化した昨今においても、メディアをにぎわす不祥事の数々です。ニュースで企業の不祥事が流れるたびに「もうあの会社の商品は買わない!」との声が聞かれるなど、消費者が企業を見る目はますます厳しくなっています。
ひとたび不祥事が起こると、行政からの処分や損害賠償、株主代表訴訟にとどまらず、企業イメージの低下やステークホルダーからの信用・信頼の失墜を招くなど、企業活動に及ぼす影響は計り知れません。コンプライアンスに対する社会の関心が高まったことでダメージは一段と大きくなり、存続が危ぶまれる状態や廃業に追い込まれた企業もあるほどです。ひと昔前までは、「コンプライアンスは大企業が取り組むもの」といった認識があったかもしれませんが、中小企業にとっても当然無縁なテーマではなく、あらゆる企業にコンプライアンス経営の推進が求められています。
ここで改めてコンプライアンスとは何か、その定義を確認してみましょう。「コンプライアンス(compliance)」の単語本来の意味は、「(命令・要求などに)従うこと」。そこから、「法令遵守」という解釈で使われています。文字通り、企業活動を取り巻く法令や規則を守り、違反をしないということですが、企業コンプライアンスの範囲は法令の遵守に限りません。法令に違反していなくても、法の目をくぐるような行動やモラルに反する行動を取れば法令違反を犯したのと変わらない影響を受けます。例えば、機密情報をシュレッダーにかけずに廃棄してしまったらどうなるでしょうか? 場合によっては守秘義務違反になる可能性があります。また、自分たちはしっかりしているつもりでも、コンプライアンス上問題のある会社と取引を続けていれば自社の評判を下げかねません。リスクマネジメントの観点からも、コンプライアンスは「社内ルールの遵守」や「社会的良識の遵守」といった意味も含め使われるのが一般的です。
適切な運用があってこそ高まる社員のコンプライアンス意識
コンプライアンスを推進するには、上述した「法令遵守」「社内ルールの遵守」「社会的良識の遵守」の3つを踏まえ、コンプライアンス経営の土台となる経営理念や行動規範、コンプライアンス基本方針などを作成し、コンプライアンス制度を構築することが大前提です。しかし、制度を構築して終わりでは、違反・不祥事を未然に防ぐことにはつながりません。また、せっかく制度があっても全社に浸透していなければ、いざ違反が起こった時に問題をさらに大きくしてしまう可能性もあります。他の制度や取り組みと同様に、コンプライアンス制度も社員一人ひとりがその意義をしっかり理解し、意識が浸透してこそ効果を発揮するのです。
では、コンプライアンス制度を全社員に浸透させる上で、どんな点に気を付ければよいのでしょうか? それは、法改正などにも対応しながら適切に制度の運用・見直しを行い、研修をはじめとした教育施策を取り入れて社員のコンプライアンス意識を高めていくことです。以前、コンプライアンス教育に関するコラム でも触れましたが、「遵守」「厳守」「ルール強化」といった決まり事を徹底させる教育だけでなく、教育を通じて自社に対する誇りを持たせ、一人ひとりが会社の代表として振る舞える環境を整えることが大切です。
また、制度の運用・見直しに当たっては、“ヒヤリハット”件数や研修受講率、テスト結果などからコンプライアンス浸透度を測り、これを指標としながらPDCAサイクルを回していくことで、より実効性の高い制度へと改善することができます。
コンプライアンスの推進はトップの姿勢次第
ここまで、コンプライアンス制度を適切に運用し、社員へしっかりと浸透させることの重要性を考えてきました。最後にお伝えしたいのは、「経営トップの姿勢を明確にすることがコンプライアンス経営には欠かせない」ということです。トップ自身が違反に関わったり、指示を出したりするのは論外ですが、コンプライアンスに対するトップの意識が薄くては健全なコンプライアンス体制は構築できません。
数年前に世間を騒がせたある企業の食品偽装問題。同社の社長は当初、故意の「偽装」ではなく意図せぬ「誤表示」と主張していましたが、後日、偽装の事実を認めました。そのため、誤表示を強調した社長の姿勢に批判が集まり、引責辞任に追い込まれるという結果を招いてしまいました。
一方、ある自動車メーカーは、法令遵守は当然のこととした上で、「お客さま目線の安全・安心の観点から品質不具合を捉え、リコールを決定する」という方針を明確に打ち出しました。法令よりも厳しい独自の基準を設けることは相当なコスト負担を伴いますが、顧客に対してより高い品質を約束することにつながるため、長期的に見れば競争優位の源泉ともなり得るのです。
このように、「コンプライアンス=企業の在り方」であり、経営トップがコンプライアンスを貫く姿勢こそがコンプライアンス経営の要ということができます。トップの意思を明確にし、社員一人ひとりのコンプライアンスへの関心・理解を高め、実践を徹底することで、様々なステークホルダーから信頼される組織が実現するのです。