人材育成のポイントとは?-現場の意見を尊重した教育計画の落とし穴-
現場の意見を尊重した人材育成の効能
人材育成の担当者として、社員が成長できる環境を整備することは重要な役割ですが、一方でその環境が現場の社員から煙たがられてしまうことも多々あります。「この忙しい時になんで研修を受けなきゃいけないんだ」―このような言葉を現場の社員から投げ掛けられたことのある方も少なくないのではないでしょうか。このように社員が後ろ向きな状態で教育研修などを実施しても、期待される成果は上げられません。人材育成を行う上で、いかに社員の学習意欲を向上させるかは各企業の人材育成担当者の気になるところかと思います。
この課題に対し、多くの企業では、現場の意見を重視した教育計画を実施しています。教育計画を立案する前に、現場にインタビューを行い、現場の管理職や社員の要望を集めます。現場の営業部長から「若手営業マンの営業力を強化してほしい」と言われたら、若手社員向け営業力強化研修を実施し、技術部長から「最新の技術を学ばせたい」と言われたら、専門の技術教育を実施します。他にも目標管理制度と絡めて上司と部下で今期の目標を設定したり、カフェテリア形式で数ある教育プログラムの中から社員が興味のあるテーマを自分で選んだりする手法も、現場の意見を反映させた教育手法として取り組まれています。
このように現場の意見を尊重し、社員が興味を持っているテーマを実施することは以下のような効能をもたらします。
- (1)実務に直結するテーマであることが多く、即効性の高い人材育成が期待できる
- (2)社員自身が課題意識を持っているテーマであるため、人材育成実施前の動機付けがしやすい
- (3)カフェテリア形式の場合、人事側の負担を軽減できる
このような理由から、人材育成をする際にまず現場の意見に耳を傾けるべきだという主張が支持されています。しかし、「現場の意見を尊重する=人材育成の効果が高い」という理屈に傾倒してしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまいます。
「育成は時間がかかる」を前提に施策を考える
前項でお伝えしたとおり、現場の意見を尊重した人材育成は大変有意義なことです。しかし、現場の意見を尊重しすぎると別の課題が現れます。というのも、人材育成による施策は効果が出るまでに時間がかかることが多いためです。教育計画を立案する際は、下記課題を十分に吟味することが肝要です。
(1)「現場の社員は必要性を感じていないが、将来必要とされるスキル」が人材育成の課題から漏れる
社員の意見を尊重することは大事ですが、社員の意見だけを尊重することは近視眼的な教育計画になる可能性があります。例えば、IT業で働くプログラマーに求められることはIT言語の習得です。しかし、今後プログラマーからシステムエンジニア、プロジェクトマネジャー、管理職と昇格していくと顧客との折衝や部下のマネジメント、部門間調整力といったIT言語とは別のスキルが求められるようになります。また、管理職にしても会社の経営状況を財務諸表から正しく把握する力や外部環境の変化から中長期の事業計画を作成する経営スキルは、意識的に学ばないと身に付きません。人材育成の担当者として教育計画を立案する際は、こうした将来経営から求められるスキルが漏れていないか、中長期の視点に立って考えることが大切です。
(2)「いまは必要とされているが、数年先には必要とされなくなるスキル」にも時間とコストをかけてしまう
現場の意見を尊重しすぎると、時間とコストをたくさん使ったにもかかわらず、そのスキル自体の必要性がなくなってしまった・・・というような事態が起こりえます。例えば、業績が落ちている部門で、今後撤退することも視野に入れている事業に関する専門スキルや、派遣社員やBPOなどで代替できるスキルなどが該当します。こうしたスキルが現場の意見として挙げられた場合は、人材育成の取り組みだけでなく派遣社員を雇うことやアウトソースすることも視野に入れて考える必要があります。
人材育成のポイント:長期的な視点と、現場の意見と経営視点のバランスが大事
ここまで見てきたように、人材育成の施策には効果が出るまで時間がかかるという特徴があります。したがって、人材育成の課題について考える際は、現場の意見だけでなく、中長期を見据えた経営の視点もふまえて企画立案することが大切です。経営視点だけの人材育成では、トップダウン型でやらされ感のある教育施策となってしまい、現場の視点だけだと、中長期の課題が抜け漏れてしまいます。
会社全体を俯瞰した上で、バランスよく人材育成の課題に取り組めるかどうかが、人材育成の成否を決める分かれ目となるのです。