ファシリテーションとは?4つのスキルと6つのテクニック
「無駄な会議」を減らし、有意義な会議を生むために必要な技術が「ファシリテーション」です。会議を円滑に進める基本の流れをおさえ、参加者の意見を引き出して整理することで、議題に沿った解決策や方向性を得られるでしょう。
本コラムでは、ファシリテーションとは何か、そのメリット、ファシリテーターの役割と4つのスキルなど、会議を有意義に進めるために不可欠なポイントを解説します。
ファシリテーションとは
はじめに、「ファシリテーション」の意味やその必要性をおさえましょう。
ファシリテーションの意味
ファシリテーション(facilitation)とは、英語の意味でいえば「物事を容易にすること」「円滑化」です。特にビジネスシーンにおいては、会議やプロジェクトをスムーズに進められるよう支援すること、具体的には組織が目標を達成するために問題解決や合意形成などを支援することを意味します。
ファシリテーションという言葉は、1960年~1970年代のアメリカで使用されるようになりました。従来のトップダウン方式ではなく、会議の参加者が意見を出し合い、意思決定をする流れが広まったことがきっかけです。
日本国内の企業でも、グローバル化によって多様な意見の重要性が認識されるようになるとともに、意見を整理してまとめるファシリテーションの役割が注目されるようになりました。
ファシリテーションを行う人のことをファシリテーター(facilitator)と呼びます。
会議のファシリテーションはなぜ必要?
会議では、ファシリテーターが非常に大きな役割を担っています。ファシリテーションの有無で、その会議が「有意義」になるか「無駄」になるかが分かれると言っても過言ではありません。
外部環境の変化が激しいVUCAの時代、生じた課題に対して迅速かつ柔軟な対応が求められています。課題解決に向けた話し合いの場で、「誰も発言しない」「議題と関係のない話に終始する」ことがあってはなりません。ブレインストーミングで意見を出すだけ出して、具体的には何もまとまらないまま時間が過ぎるという事態も、好ましくはないでしょう。
会議を有意義な時間とするには、
- 発言が少ないときに具体例や状況の説明、雰囲気づくりなどを行って発言を促す
- 脱線した発言が多いときに、軌道修正を行う
- 意見やアイデアの発散後、論点整理を行って具体的な解決策まで導く
といったことができる適切な案内役が必要。その案内役こそ、ファシリテーターなのです。
ファシリテーション・司会・リーダーシップの違い
ファシリテーションのように全体の流れをコントロールする立場として、司会やリーダーシップを思い浮かべる方もいるかもしれません。ファシリテーションとの違いは、参加者やメンバーとの関わり方にあります。
ファシリテーションと司会の違い
司会といえば、イベントや会議などの進行を担う役割。ファシリテーションと司会は、双方とも「進行役」という意味で近いものに思われます。しかし、参加者の発言を促すか否か、議題や目的に応じた結論を導くか否かという点で大きく異なります。
司会の役割とは、基本的に台本に沿ってイベントや会議を進めることです。会議の内容や参加者の意見に踏み込むことはあまりないでしょう。
これに対して、ファシリテーションでは積極的に参加者の発言を促し、意見を引き出したうえで論点整理を行い、最終的な合意形成へ導くことを求められます。
ファシリテーションとリーダーシップの違い
ファシリテーションとリーダーシップも、「その場をまとめてメンバーを引っ張っていく」という点で似ていると感じられるかもしれません。これも、メンバーとの関わり方を見ると、両者の違いがはっきりします。
リーダーシップとは、一般的に指導者としての資質や能力、行動などを意味します。チームの方向性をメンバーに示したり、率先して行動したり、目標達成に導いたりすることと言ってもよいでしょう。
具体的なリーダーシップ論には多様な形態がありますが、リーダーはメンバーと同じ方向を向いて、一緒に進んでいくイメージです。
一方、ファシリテーターは指導者ではありません。中立的立場で多様な意見を引き出し、特定の課題や議題に対する結論や解決策を見つけるために、議論や合意形成を支援する立場です。
もしファシリテーターが自らの意見を重視して結論を出してしまえば、それはファシリテーションの本来の目的から外れてしまうでしょう。ファシリテーションは、トップダウン型ではない会議の進め方、議論の支援という文脈で登場した手法だからです。
ファシリテーションの3つのメリット
こうしたファシリテーションには、議論の質を高めるという大きなメリットがあります。具体的にどのように議論の質を高めることができるのか、3つの観点から見ていきましょう。
(1)アイデアが生まれやすい
プロジェクトの成功には、ゴール達成に向けた適切で魅力的なアイデアが必要です。こうしたアイデアの創出に、ファシリテーションは大きく貢献します。ファシリテーションは、参加者に議論を促し、積極的な発言が苦手な社員でも意見を出しやすい雰囲気をつくるからです。
物静かな社員でも、外から見えない素晴らしいアイデアを持っているかもしれません。より多くのメンバーから意見を出してもらうことは、より多様なアイデアを比較検討するという点でも、非常に重要です。
多様なアイデアの組み合わせや応用、目的に合わせた取捨選択を行うことで、会議の目的・目標に合った効果的なアイデアの創出につなげられます。
(2)適切なフィードバックができる
ファシリテーションを身につけた社員は、会議やプロジェクトで全体を見渡す視点を持つようになります。そのため、限られた時間でも参加者に公平に発言の機会を与えつつ、発言の意図をくみ取り、かつ目的・目標に沿った良質なフィードバックを行えるでしょう。
質の高いフィードバックは、メンバーのモチベーション向上にもつながります。
「このプロジェクトに参加してよかった」
「この会議で発言できてよかった」
「次のアイデアも考えてみよう」
など、今後の活動にポジティブな影響を与えられるでしょう。
同時に、各メンバーにとって何をすべきかが見えやすくなり、参加者それぞれが自分の役割や今後のタスクを把握しやすくなります。
(3)納得のいく合意形成ができる
適切なファシリテーションとは、多くの参加者の意見をもとに、納得できる結論を導くものです。そのためには、ただ多数決で決めるのではなく、少数派の意見も無視せず、有用な意見を拾い上げる必要があります。
少数派の意見にも注目することは、考えられるリスクを見逃さず、低減あるいは回避する施策の立案にもつながるでしょう。
このような納得のいく合意形成を行える点が、ファシリテーションの大きな強みとなっています。
ファシリテーターの4つの役割
3つのメリットからわかるように、ファシリテーターには円滑な進行や調整だけでなく、参加者の意見を引き出し、まとめる役割があります。
特に会議では、メンバーの多様な意見を把握・整理し、重要なポイントを引き出しつつ議論を活発化させ、かつ最終的に適切な地点に議論を着地させなければなりません。
新しいアイデアや適切な問題解決案を生み出すため、以下で解説するファシリテーターの4つの役割をおさえましょう。
(1)会議の場を準備し、良い雰囲気にする
ファシリテーターは、どのような人々が集まって会議を行うのかを把握する必要があります。様々な考えや価値観を持つ人が集まっても建設的な議論ができるよう、会場の雰囲気を整えなければなりません。
例えば、
- 会議の序盤でアイスブレイクを行う
- 発言しにくい雰囲気になったら雑談を交えて、参加者が発言しやすい空気をつくる
などの対応を行います。
会議が有意義な時間となるよう、議論しやすい場づくりが重要です。
(2)参加者の意見やアイデアを引き出す
参加者の意見やアイデアをいかに引き出せるかも、ファシリテーターの腕にかかっています。
議論を活性化するには、ファシリテーターが発言者の意見を的確に受け止め、真意を理解しなければなりません。具体的には、
- 人によって意見の引き出し方を変える
- 各参加者の考え方や発言の文脈を担当分野や背景、議論の流れから把握する
などを行います。
本来の論点からズレる意見が出た場合は、必要に応じて議論の流れを戻す必要もあるでしょう。これらをより効果的に行うには、参加者の関係性や関連情報の事前調査も有効です。
(3)出た意見をまとめ、フィードバックする
ファシリテーターは、参加者から出た意見を会議の目的・目標に合う形でまとめ、フィードバックを行う存在でもあります。参加者の人数が多いほど多様な意見をまとめ上げる力が求められるでしょう。
例えば
- 出された意見のうち、目的・目標に合うものを中心に優先順位をつける
- 意見やアイデアをカテゴライズする
などのテクニックを使います。
また、参加者へ議論の流れやアイデアのポイントをフィードバックする必要もあるでしょう。それには、
- 最終的な着地点を意識する
- 常に参加者が納得できるポイントを探りながら、全体をまとめる
という2点を意識することが大切です。
(4)合意形成をする
会議終盤では、議題を解決できる意見を中心に、全ての参加者が納得できる形で結論を導きます。これを「合意形成」と呼びます。
対立する意見がある場合は、それらの共通点や対立点を明確にして比較しましょう。そして、いつまでに何を行うかなど、細かい点まで意見や認識を一致させてください。
一度の会議で結論が出ない場合は、暫定的なまとめを行い、次の会議へ引き継ぐのも一つの手。その会議で結論を出すか、次回以降の会議を設定して引き続き議論するかは、参加者の意見や議題の複雑さ、締め切りなどから判断しましょう。
ファシリテーションに必要な4つのスキル
ファシリテーターに求められる役割を果たすには、いくつかの重要なスキルを習得・向上させなければなりません。その中でも特に必須とされるスキルが、準備力・理解力・質問力・傾聴力です。
準備力
1つめのスキルである準備力とは、有意義な議論の場づくりを行うための事前準備を行う力です。具体的には、次のことを行います。
【準備力の具体例】
- 会議の目的とゴールを設定する
- 会議の参加者を確認する
- アイスブレイクの内容を考える
- 議論の大まかな流れ、アジェンダ、タイムテーブルを作成する
- 目的・ゴール、アジェンダを参加者に共有する
- 会議前に質問を受けた場合、回答を用意するか、回答できる人に準備してもらう
- 会議で使用する資料の作成、機材の用意を行う
会議を円滑に進められるよう、参加者の目的意識の醸成を行い、必要な機材などの準備をしっかりと行いましょう。
理解力
2つめのスキルは、理解力です。会議には様々な考え方を持った人が参加しています。議論をスムーズに進めるには、各参加者の意見について、即座に相手の言わんとするところをくみ取り、他のメンバーにも理解しやすい表現で提示する力が欠かせません。
特に気をつけたいことは、どのような会話の流れ、背景で発言されたかという点です。言葉の意味や発言の目的は文脈によって異なり、必ずしも字義通りの意味が意図されているとは限りません。発言者が言葉の使い方を誤ってしまう可能性もあります。
こうした可能性を考慮し、発言者が本当に伝えたい内容を的確に把握するには、ファシリテーター自身の理解力を磨きましょう。議論に関わるトピックやビジネス用語を理解するとともに、ロジカルシンキングを意識したトレーニングを行うとよいでしょう。
質問力
参加者の意見を的確に理解したり、発言の少ないメンバーから意見を引き出したり、あるいは議論の軌道修正を行ったりする際は、ファシリテーターによる質問が大きな威力を発揮します。そのため、ファシリテーションのための質問力も高めておきたいところです。
ファシリテーターが行う質問には、例えば次のようなものがあります。
【ファシリテーターの質問例】
- 抽象的な意見に対して、「具体的には、こういうことですか?」などの質問を行い、メンバーの理解を深める
- 議論の軌道修正で「例えば、こういう場合はどうですか?」など、例をあげて考えてもらう
- 発言を促すため、各メンバーの得意分野に関する項目をあげて「これについて、○○さんは何かご存じではありませんか?」など、話を振る
質問を投げる際は、ぜひ質問の仕方も上手に使い分けてください。「はい、いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンは、相手の回答がシンプルになるため負担をかけずに発言のきっかけをつくれます。「勉強会についてどう思いますか」のようなオープンクエスチョンなら、質問されたメンバーが自由に答えられるでしょう。
参加者の疑問や不明点を解消できるよう、適切なタイミングで質問することも大切です。
傾聴力
そして4つめのスキルが、傾聴力です。
ファシリテーターには理解力や質問力が大切と述べましたが、理解しようとしてファシリテーターばかり発言してしまうことは、得策ではありません。他のメンバーの発言意欲を高めて意見やアイデアを引き出すことが、ファシリテーターの重要な役割だからです。そのため、質問力と同時に、傾聴力も磨く必要があります。
傾聴力とは、簡単にいえば、相手が発言しやすい雰囲気をつくることです。
【傾聴力の具体例】
- 適切なタイミング、頻度でアイコンタクトを送る
- 相手の話を邪魔しない程度に相づちを入れる
- 発言内容を繰り返したり、要約したりすることで、共感を示す
場づくりは事前準備でも行いますが、会議中も場が乱れないよう、かつスムーズに発言できる雰囲気をつくれるよう、参加者の邪魔をしない聴き方を心がけましょう。
ファシリテーションにおける基本の流れと5つのプロセス
以上のように、ファシリテーションを担う人には高度なスキルが求められます。「難しい」と感じる方もいるかもしれません。しかし、以下に述べる基本の流れを適切な手順で進めれば、ファシリテーションスキルを向上させられます。
今回は、特に会議のファシリテーションについて解説します。以下のように大きく5つに分けて見ていきましょう。
- (1)事前準備
- (2)場づくり
- (3)発散
- (4)論点整理と合意形成
- (5)まとめ
(1)事前準備
ファシリテーターが最初に行うべきことは、事前準備です。4つのスキルの「準備力」でも述べたことですが、改めて確認しましょう。
【事前準備の例】
- 会議の目的とゴールを設定する
- 会議の時間、参加者を決める
- 会議室を確保する
- アジェンダを作成する
- 会議に必要な資料や道具を準備する
- 会議招集を行う(メールなどで連絡する)
会議で使う資料は、ファシリテーターが自分で作成する場合もあれば、他の人に作成を依頼することもあります。他の人に依頼する場合は、作成された資料の確認を行わなければなりませんので、時間に余裕をもって依頼しましょう。
(2)場づくり
実際に会議が始まったら、参加者全員が意見を出しやすいよう場づくりを行います。これには、「グランドルール」の設定や「アイスブレイク」の実施が有効です。
グランドルールとは、その会議において適用される重要なルールのこと。例えば、以下のようなルール設定が考えられます。
【グランドルールの例】
- 1年目から拠点長までフラットに発言できるよう、ポジションパワー(職場での力関係)は使わない
- 他の人の意見を否定しない
- 他の人の発言を最後まで聞いてから意見を述べる
若手社員が会議で正直な意見を述べるには、中堅・ベテラン社員が想像しているよりも勇気がいるものです。いわゆる「適切な言葉遣い」を気にしすぎて発言できない場合もあるでしょう。
より多くのアイデアを出してもらうためにも、上司・部下、先輩・後輩に関係なく、誰もが積極的に発言しやすい雰囲気づくりを行ってください。
2つ目のポイントであるアイスブレイクは、本題に入る前に緊張をほぐし、発言しやすくする「きっかけづくり」です。参加メンバーの人間関係などをもとに内容を考えるとよいでしょう。
【アイスブレイクの例】
- 自己紹介(初対面のメンバーが参加する場合)
- 本題とは異なる軽い話題(話しやすくネガティブにならない近況など)
会議への導入として、開始直後の5分程度でアイスブレイクを行い、グランドルールの確認をしてから、本題へ進みます。
(3)発散
会議でアイデアを出し合う段階では、アイデアの善し悪しを決めず、とにかくどんどん書き出してしまう方法がおすすめです。こうした「とにかく出す」段階は「発散」と呼ばれます。
発散では、参加者が事前に考えてきた意見を共有するだけでなく、他の参加者の意見を受けて、さらにその場でアイデアを出し合うことも大切。アイデア同士の組み合わせが、思わぬ相乗効果をもたらすこともあるからです。
発散を活性化するには、次のような手法があります。
【発散を活性化する手法の例】
- 1人ずつアイデアを出し、ホワイトボードに書き出していく
- 参加者全員が付箋にアイデアを書き出していき、ホワイトボードなどでグルーピングする
- あえて匿名でアイデアを書き出し、ファシリテーターがそれを集めて他の参加者に共有する
- 出されたアイデアを全員で確認し、さらにアイデアを出す時間を設ける
発言しにくい上下関係があるような場合は、付箋や用紙を配って匿名でアイデアを書いてもらい、ファシリテーターが回収・共有する方法が効果的です。力関係があまりなく、協力し合えるメンバー同士であれば、一定の時間内でどんどんアイデアを発表してもらうとよいでしょう。
(4)論点整理と合意形成
発散が終わったら、次の段階では意見の収束として「論点整理」と「合意形成」を行います。論点整理とは、発散によって出された多数のアイデアをポイントごとに整理すること。これをもとに、参加者全員が納得できる合意形成を進めます。
論点整理と合意形成では、各意見を的確に理解、整理したうえで、議題に沿った結論を導かなければなりません。これは、ファシリテーションにおいて最も難しいプロセスといえます。「なんとなく」という感覚的な整理ではなく、明確な根拠をもって整理することが、最大のポイントです。
効果的な論点整理を行う際に使える2種類のフレームワークがあります。1つ目はメリット・デメリット法、もう1つはペイオフ・マトリクス法です。この2つのフレームワークについては、テクニックの項目で詳しく解説します。
(5)まとめ
合意形成ができたら、最後は会議の締めくくりとして、まとめを行いましょう。
まとめでは、決定事項や各自のタスクを確認します。その際、「この決定事項は参加者全員の合意によって決められた」ことをしっかりと参加者に再認識させることが大切です。論点整理で注目したポイントを軽く振り返ってもよいでしょう。
合意形成の結果、取り組むべきタスクが発生した場合は、誰がいつまでに、何を実行するのか明確にし、タスク担当者と再確認してください。こうしたまとめをしっかり行うことで、会議の結果を各自の職場や業務に持ち帰ることができますし、会議での決定事項を遵守してもらいやすくなります。
「有意義な会議」とは、こうした事前準備からまとめまでを的確に行うことでつくられるものなのです。
会議を上手に進める6つのテクニック
最後に、ファシリテーションの各段階で役立ついくつかのテクニックをご紹介します。心構えや基本の動作から、ブレインストーミングの手法、論点整理やまとめ方のテクニックなどがあります。
今後のファシリテーションで何らかのつまずきを感じた際は、ぜひ本項目をお役立てください。
(1)ファシリテーション全体における大切なこと
ファシリテーションを担う際は、会議の進行役であり場をつくる立場として適切な服装や振る舞い方が大切です。必ずしもスーツである必要はありませんが、集まるメンバーや雰囲気に合わせた服装、毅然とした姿勢、穏やかな表情などを心がけると、好印象でしょう。
話すスピードや間の取り方、言葉の選択については、やはり参加者の知識量を考慮する必要があります。同じ分野の専門知識を持つメンバーが集まる場合は、専門用語が多かったり、少し説明を省略したりしても、問題ないでしょう。
思考力があるメンバーが多い場合は、ゆっくり話すと逆に思考の妨げになってしまうケースがあります。反対に、複数の分野からメンバーが参加している場合は、意思疎通が図りやすいよう、わかりやすい言葉選びが重要です。
加えて、ファシリテーターは意志決定者ではない点も常に意識してください。場における立ち位置は、あくまで「中立」です。様々な意見が出る中で適切な問いかけを行いながら、会議の目的、組織の方向性などのポイントから比較し、参加者による判断を支援しましょう。
(2)アイスブレイクのテクニック
アイスブレイクについては既に述べましたが、ここでもう一度振り返っておきましょう。アイスブレイクの目的は、場の緊張を解き、その後の議論を促すことです。そのため、参加者同士が初対面の場合はお互いを知ること、参加者同士が既知の関係ならポジティブで誰もが話しやすいテーマを設定することが大切です。
【アイスブレイクの例】
参加者の人間関係 | テーマ例 |
---|---|
初対面が多い |
自己紹介 自己紹介を通じた共通点探し 他己紹介 「2つの真実と1つの嘘」ゲーム |
既知の関係が多い |
最近経験してよかったこと 最近はじめて経験・挑戦したこと 休暇で行きたい場所 |
アイスブレイクの内容は、参加するメンバーが興味を持ちそうなこと、話しても支障がなさそうなことをヒントに考えるとよいでしょう。
(3)ブレインストーミングのテクニック(オズボーンの自問法)
意見の発散として行うブレインストーミングには、オズボーンの自問法やワールドカフェなどのテクニックがあります。
オズボーンの自問法とは、ブレインストーミングをつくったオズボーンが考案したもので、固定化された考え方を強制的に変えるための手法です。それまで気づかなかった考え方や着眼点を引き出しやすいというメリットがあります。以下の9つのリストを使い、上から順番に答えていきます。
【オズボーンの自問法 9つのチェックリスト】
- ①他に使い道はないか?(転用)
- ②他からアイデアを借りられるか?(応用)
- ③変えてみるとどうなるか?(変更)
- ④大きくするとどうなるか?(拡大)
- ⑤小さくするとどうなるか?(縮小)
- ⑥他のもので代用できないか?(代用)
- ⑦入れ替えるとどうなるか?(置換)
- ⑧逆にするとどうなるか?(逆転)
- ⑨組み合わせるとどうなるか?(結合)
オズボーンの自問法では、アイデアが出なくなるまで、次の質問には進みません。多少強引でも構いませんので、何とか各質問に答えていくことが大切です。
ファシリテーションでは、9つの項目を一度示したあとで、改めて一つずつ順番にホワイトボードなどに掲示し、意見を引き出していくとよいでしょう。
(4)ブレインストーミングのテクニック(ワールドカフェ)
意見の発散で使えるもう一つのテクニック「ワールドカフェ」は、カフェのようにくつろげる空間の中で、参加者がテーブルを移りながら多くのメンバーと意見交換を行う方法です。「1グループ4名前後、3ラウンド制で90分」が基本の形となりますが、会議であれば2人1組として、もう少し短い時間で実施することもできるでしょう。
ワールドカフェの実践では、参加者同士が自分の知識や考えを出し合います。ラウンドごとにファシリテーターが問いを発表し、その問いに対して、グループ内で自分の意見やアイデアを伝え合う形です。発表する問いは議題の方向性を具体化したものや、オズボーンの自問法のリストを活用すると効果的です。
ワールドカフェでは、ラウンドごとに対話相手が変わります。そのため、それまでのラウンドで話してきたことを各人が簡単に説明し合うと、より効果的なブレインストーミングになるでしょう。
ワールドカフェの終盤では、全体のベクトルを合わせ、よりよい課題解決方法を見いだしていきます。
(5)論点整理・合意形成のテクニック(メリット・デメリット法とペイオフ・マトリクス)
論点整理と合意形成で使えるテクニックは、メリット・デメリット法やペイオフ・マトリクスという2つのフレームワークです。
まず、メリット・デメリット法とは、アイデアのメリットとデメリットを書き出して比較する手法で、アイデアの数が少ない場合におすすめです。
【メリット・デメリット法の例:前年比120%の売上をあげる先着を考える営業会議】
アイデア例 ①週1回1時間の勉強会を開く | |
---|---|
メリット |
営業力の向上につながる 他の営業担当と知り合える 他の営業担当の知見を知ることができる |
デメリット |
営業活動にあてる時間が1時間短くなる 他のメンバーとペースを合わせる必要がある |
アイデア例 ➁外部の営業コンサルティング会社を活用する | |
---|---|
メリット |
客観的な視点で営業プロセスを見直すことができる トレンドをおさえることができる |
デメリット |
コストがかかる 自社の事業に合わないと無駄になる |
2つ目のフレームワークであるペイオフ・マトリクスとは、「成果/効果」と「難易度/実現性」という2軸の評価基準を設定し、複数の案をマトリクスに落とし込んで比較する手法です。
メリット・デメリット法と違い、多数の案が出ている場合でも一貫した評価基準で比較できます。明確な評価基準で論点整理をできますので、参加者の理解を深めるとともに、最終的な合意形成もしやすくなるでしょう。
【ペイオフ・マトリクスの例】
【マトリクスの例:営業スキル向上に向けた施策を考える会議】
アイデア例 ①週1回1時間の勉強会を開く | |
---|---|
成果「小」 | 勉強会を開催してもすぐに成果にはつながりにくい |
難易度「低」 | コストをかけずにすぐ始めることができる |
アイデア例 ➁外部の営業コンサルティング会社を活用する | |
---|---|
成果「大」 | 営業のプロからアドバイスがもらえる |
難易度「高」 | コストがかかり、社内で稟議を通す必要がある |
(6)タイムマネジメントのテクニック
そして、事前の設計通りに会議を進めるために欠かせないテクニックが、タイムマネジメントです。
効果的なタイムマネジメントには、各工程における所要時間の把握が必須。そのため、最大のポイントは、各工程の所要時間を把握することにあります。
例えば、会議のリハーサルなどを行い、各工程でかかった時間を記録してみましょう。過去の会議で時間の記録があるものも参考になります。また、今後のファシリテーションに備えて、今回の会議の所要時間を工程ごとに記録することもおすすめです。
時間計測の際は、
- アイスブレイクの流れ、議題の説明、意見交換のやり方の説明、論点整理、合意形成、まとめの各工程で、ファシリテーター自身が話す時間
- 参加者に意見を出してもらう時間
の見当をつけ、全体のタイムテーブルを組んでみてください。実際の会議では、予定より多少短くなったり長くなったりします。時間が余った際に追加で話す内容、時間が足りないときに割愛する内容も事前に決めておきましょう。
人員に余裕がある場合や、参加者が多い場合は、ファシリテーター以外にタイムキーパーを置くと効果的です。タイムキーパーには、タイムテーブルに沿って時間を予告してもらうとともに、各工程の時間計測も行ってもらいましょう。
ファシリテーションで会議を効率よく
会議を有意義な時間とするには、ファシリテーション力が高いファシリテーターが必要です。適切なファシリテーションは、会議の円滑な進行だけでなく、議論を活性化させ、効果的で新しいアイデアの創出も促すでしょう。
今回は会議を例に解説してきましたが、多くの人が参加する研修やセミナー、勉強会でもファシリテーションは有効です。
ALL DIFFERENT株式会社では、ファシリテーターに必要なスキルを学べる「ファシリテーション入門」をご提供しています。
「会議をもっと有意義にしたい」
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という方は、ぜひご活用ください。
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