人材の“評価”と“育成”に役立てたいアセスメント -管理職が知っておくべき基礎知識-

published公開日:2017.06.12
人材の能力や特性、適性など、目に見えない側面を明らかにする「アセスメント」は、昇進・昇格などの人事評価や、個人の能力開発・キャリア開発といった人材育成に活用されています。今回は、アセスメントの機能や必要性を改めて確認するとともに、代表的なアセスメントの方法についてご紹介します。

人事分野におけるアセスメントとは?

環境アセスメントや製品アセスメントという言葉を耳にするようになって久しいですが、人事の世界でも「アセスメント」が使わていることは皆さんもご存知のことと思います。アセスメントとは、辞書を引くと「事前影響評価」や「査定」(以上、小学館・デジタル大辞泉)、もう少し詳しいものだと「開発が環境に及ぼす影響の程度や範囲について、事前に予測・評価すること」(三省堂・大辞林)などと出てきます。人事の分野では、「経営人事において扱われる広義の人事測定・人事評価全般」のことを指し、「人材」「職務」「組織」の3領域において、売上などの数字では測ることのできない特性を明らかにすることで、それぞれの経営的価値を評価する役割を担っています。

文脈によっては、「一定の訓練を受けた専門家によって、科学的・客観的に行われる人事測定・評価」、すなわち後述する「アセスメントセンター(アセスメント研修)」のことを狭義的に「アセスメント」と言うケースもありますが、本コラムでは広義の意味を用いてお伝えしていきます。

アセスメントの2大機能は「意思決定支援」と「個人の成長支援」

企業経営において、人事部門は限りある人材資源をどのように調達し、どのように配分、異動、開発、存廃させるのかといった意思決定の役割を担っていることは周知のとおりです。この意思決定を適切に行うに当たって必要なのが、社員一人ひとりの資質や能力、意欲、キャリアといった個別の状態を正しく把握すること、そして職務や組織の状況を把握することです。

そこで効果を発揮するのがアセスメントです。例えば人材の調達。採用活動を行う際に、あらかじめ応募者の資質や意欲、適正を測ることで妥当な採否につながる、というのが分かりやすい例かと思います。また人材育成においては、個々の知識やコンピテンシー(能力・行動)を測ることで、適切な人員の配置や昇進・昇格といった処遇を決定することにつながっていきます。このことから、アセスメントには人事上の「意思決定を支援する」効果があると言うことができます。

もう一つ、個人の能力開発とキャリア開発にもアセスメントが効果を発揮することを見落としてはいけません。対象者および上司・人事部が、アセスメントを通じて対象者の力量や課題を正しく把握できれば、学ぶことに対する意義付けや動機付け、目標設定が可能になり、その上で課題に沿ったトレーニングを受け、受講後にも適切な評価を受けることで効果や成長が確認できます。これは、アセスメントには正しい自己認識によって学びのレディネス※1 を形成し、成長を実感させる機能があるということ。つまり、アセスメントには「個人の成長を支援する」効果も期待できるのです。

目的に合ったツールでアセスメントの機能を最大限に活用

では、アセスメントの手法にはどのようなものがあるのでしょうか? 様々なアセスメントツールがありますが、代表的なものが① 適正検査、② 多面観察評価(360度評価)、③ アセスメントセンターの3つです。

おそらく皆さんも一度は受けたことがある適正検査。これは受検者(評価対象者)の能力的側面や性格的側面、態度的側面などをテストにより把握し、"将来"の職務遂行能力を予見するために活用される手法です。ひと昔前までは、免許や資格、学業成績などを一つの判断基準とし、"現在"の能力や技能の保有状況を見ることが主流でした。しかし、業務の内容や求められるスキル、役割が変わっていく中では、「新しい能力を獲得することができるか」を広く見る必要があると考えられるようになり、近年は、文章理解能力や計算能力、論理的推理能力などを測定し、多くの職務に共通して必要とされる能力を測る一般知的能力検査が活用されています。また、人材評価の一つの枠組みとして、性格的側面に着目した性格適正検査も導入されるようになり、能力適正と性格適正のテストを組み合わせて判断・評価するのが一般的です。適正検査の結果を採用や配属、部下指導のデータとして活用するのはもちろんですが、受検者本人に結果をフィードバックすれば、自己認識を促す研修プログラムにもなるため、教育素材として利用されることもあります。

また、2つ目の多面観察評価とは、360度評価とも呼ばれ、複数の評価者によって対象者の行動を観察し、能力や態度、成果などを評価する手法です。上司だけでなく部下や同僚、そして評価者本人によって評定するのがこの手法のポイント。上司だけが評価する場合とは違い、より客観的で精度の高い評価を得ることができるため、評価対象者の納得感を確保しつつ、組織貢献の個人差に応じた処遇を決定することが可能です。また、対象者に強みや弱みといった気付きを与えることもできることから、処遇決定評価と能力開発の両面で活用されています。

3つ目のアセスメントセンターは、実際の職務において個人のスキルや資質がどのように発揮されているかを測定・把握する手法。アセスメント研修やアセスメントセンター方式、人材アセスメントなどと表現されることもあります。具体的には、アセッサーと呼ばれる訓練を受けた専門家が、グループディスカッションやゲーム、シミュレーションといった実際の職務場面に近い状況での行動を観察したり、面接を行ったりすることで、実践的なスキルや課題を科学的かつ客観的に評価します。アセスメント研修という名前からも分かるように、アセスメントセンターを受けること自体が研修になっているという側面もあるため、人事評価だけでなく人材育成にも活用するのが一般的です。

今回のコラムでは、3つの代表的なアセスメントツールを紹介しましたが、業種や業態、企業規模だけでなく、目的によっても適切なツールは異なります。人材の評価や測定、育成でお悩みの方は、当社までお問い合わせいただければ幸いです。

  • ※1 学習の際に必要となる一定の知識・経験・心身の準備などができあがっている状態

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