失敗しない経理業務のアウトソースのポイント

published公開日:2017.11.24
ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)と言われるバックオフィス業務をアウトソースするサービスが年々広がっています。経理業務もその一つです。では経理業務をアウトソースすることにリスクは無いのでしょうか。今回は経理業務のアウトソースについて考えていきたいと思います。

経理業務に期待される役割

企業がお金を扱っている限り、経理業務は企業経営に不可欠の業務です。現金や預金といったお金そのものを管理することだけでなく、経理業務からアウトプットされる会計情報の提供は、自社の経営状態を把握するためになくてはならない業務です。

経理業務で実施すべきことは広範囲にわたっており、経済産業省作成の「経理・財務スキルスタンダード」では経理業務の範囲として、以下の18項目が挙げられています。

「1.売掛債権管理」
「2.買掛債務管理」
「3.在庫管理」
「4.固定資産管理」
「5.ソフトウェア管理」
「6.原価管理」
「7.経費管理」
「8.月次業績管理」
「9.単体決算業務」
「10.連結決算業務」
「11.外部開示業務」
「12.中長期計画管理」
「13.年度予算管理」
「14.税効果計算業務」
「15.消費税申告業務」
「16.法人税申告業務」
「17.連結納税申告業務」
「18.税務調査対応」

これらの項目を見ていただいてお分かりの通り、日常的な業務から経費や資産などの管理業務、決算書などの会計情報の作成、と経理業務と一口に言っても多岐にわたっています。

近年は、グローバル化やAI、ビッグデータの活用を含めたIT化の進展により、経理業務に期待される役割は大きく変化しています。日本CFO協会の「経理・財務部門の組織・人材に関する調査」によると、「経理・財務人材に求められる役割が大きく変わっている」、「やや変わってきている」を合わせて91%となっています。グローバル化への対応、国際会計基準への準拠、M&Aへの対応など、今まで以上に専門的で高度な役割が求められています。

経理業務のアウトソース化の現状

このような状況下で、経理に求められる役割を果たすために、経理業務のアウトソース化が進んでいます。従来、アウトソースする業務は、税理士事務所などに委託する記帳代行のような単純な業務に限られていました。しかし近年は記帳代行にとどまらず、オペレーティブな業務の多くはアウトソース化し、企業のコアな業務に集中する動きが活発になっています。それにより、アウトソース化の対象とする業務範囲も広がる傾向にあります。
前述の日本CFO協会の調査でも、「委託業務の範囲が現在より拡大していく」と回答している割合が73%と非常に高くなっています。

現在、BPOサービスを活用している企業は、大企業グループに属している企業が、資本関係のあるBPOサービス企業にアウトソースするという形が中心ですが、今後クラウドサービスの拡充などにより、中堅・中小企業にも活用しやすくなり、BPOサービスを活用する企業が多くなっていくことが予測されます。

アウトソース化で成功する企業、失敗する企業

経済産業省 商務情報政策局の調査「ビジネス支援サービスの活用」(平成26年3月)によると、実際にBPOサービスを活用した企業では、経営資源のコア業務への集中、業務の効率化といった効果が報告されています。

では、もともと企業が経理業務をアウトソース化によって得ようとするメリットとはどのようなものでしょうか。
前述の調査「ビジネス支援サービスの活用」では、経理業務をアウトソース化することで期待する効果として、

  • ・コスト削減
  • ・業務の効率化
  • ・専門的知識・スキルの活用
  • ・経営資源のコア業務への集中
  • ・業務プロセスの標準化

などが挙げられています。

様々なメリットがある反面、アウトソース化を進めて失敗している企業もあります。
アウトソース化に失敗した企業から聞く声として以下のようなものが挙げられます。

  • ・標準的な事務処理には対応してくれるが、例外処理などは自社でやらざるを得ず、結果的に業務が効率化しなかった
  • ・自社の実態を考慮しない会計処理をされ、社内で再確認する業務が発生してしまった
  • ・専門的な知識やノウハウからのアドバイスなどを期待したが、一般的な情報しかもらえなかった
  • ・経理業務に精通した人材が育たなくなり、ベテランの経理担当者が退職後、アウトソース先の評価や管理をする人間がいなくなった

などです。

では、なぜアウトソースに失敗してしまう企業が出るのでしょうか。
経理業務のアウトソースに失敗する企業には共通点があります。
それは効率化することだけを目的にアウトソースすることを決めてしまっているという点です。

経理業務は業種業界を問わず標準的なやり方が確立されていると思われがちですが、実は事業形態や企業文化によって異なります。
例えば同じ製造業でも、見込み生産中心で、受注があれば既に生産してある製品在庫から出荷する形態をとっている企業と、受注生産で顧客要望を聴き、設計段階を経た後で、製品の製造に取り掛かる企業だと、受注の処理や売上計上の処理、売掛金の管理方法なども異なってきます。
自社固有の状況による特殊な業務処理や例外処理などがある場合は、そのままの状態でアウトソースすることは困難です。

経理業務をアウトソースする際には、自社の固有の状況を一般的な経理業務に変換し、アウトソース先に伝える必要があります。そのため、自社の状況を理解しかつ経理業務も精通している人材がいなければアウトソースすることもままなりません。

違う観点では、自社事業や社内の状況を踏まえた上で、経理の専門家として経営に関する提言を行うことなども自社内にいる人材だからこそできる領域もあります。
このように企業に価値をもらたらす人材は自社で育成していくことが必要なのです。

経理業務のアウトソースする際に注意すべきこと

失敗した企業の状況を考慮すると、経理業務のアウトソース化でメリットを出すには以下の点を考慮する必要があります。

  • ・自社固有業務の一般化・定型化が可能か
  • ・例外処理のパターン化が可能か
  • ・自社固有の状況を理解するアウトソース先を選定可能か
  • ・長期的な人材育成がアウトソースすることで阻害されないか

経理業務のアウトソースはうまく活用すれば様々なメリットが得られます。
しかし、安易にアウトソースすることは自社にとってデメリットを招くだけでなく、将来的な人材不足を招くリスクも生み出します。

アウトソース化でメリットを得るにはしっかりと自社の状況を踏まえて、どのようにアウトソースを活用するかを検討することが重要です。
しっかりと検討をすることそのものが自社の業務効率化、経理人材の育成につながることになるかもしれません。アウトソースの検討をきっかけに自社の経理業務の見直しだけでなく、経理人材のさらなるレベルアップを考えてはいかがでしょうか。当社は企業の実態に即して長期的に人材を育成するためにどうすべきかについて人材育成のトータルサポートをしています。是非当社の人材育成に関するノウハウをご活用いただければと思います。