カゴメ株式会社 有沢正人氏 「人的資本経営」を目指し毎年進化するカゴメの人事制度~真の意味での経営戦略と人材戦略の連動とは~ カゴメ株式会社 有沢正人氏 「人的資本経営」を目指し毎年進化するカゴメの人事制度~真の意味での経営戦略と人材戦略の連動とは~

「各業界で活躍されているあの人は何がすごいのか?」をコンセプトに、各界の有識者から“成長の秘訣”や“仕事論”を赤裸々に語っていただくHR×LEARNING スペシャルセミナー。

2024年6月27日開催のセミナーでは、カゴメ株式会社 常務執行役員 兼 カゴメアクシス株式会社 代表取締役社長である有沢正人氏にご登壇いただき、毎年進化してきたカゴメの人事制度について、キャリア自律支援やジョブ型人事制度などの取り組みを赤裸々に語っていただきました。1時間にわたる質疑応答では、ご講演中から続々と寄せられた質問にご回答いただき、集まったご質問数はスペシャルセミナー史上最多に。今回のレポートでは、従業員のキャリアと暮らし方を大切にする「生き方改革」に基づいた人的資本経営のヒントをお伝えします。

「人的資本経営」とは何か

「自然を美味しく、楽しく」でおなじみのカゴメでは、2011年から有沢氏により多くの人事改革を行ってきました。

有沢氏は20年以上にわたって人事を中心に活躍され、著書『カゴメの人事改革:戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』(中央経済社)では、日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門で最優秀賞を受賞。ご講演の冒頭では、CHO/CHRO(最高人事責任者)の重要性や人事担当者との役割の違いを踏まえ、「人的資本経営とは何か」という大前提からお話いただきました。

CHO/CHROには、戦略を担当するという点で他の人事担当者とは異なる「経営視点」が求められます。有沢氏はカゴメのCHOとして、戦略の基盤である「人的資本」へと人事戦略を転換。これにより、人にかけるお金を「コスト」ではなく「投資」と見る考え方を定着させてきました。

管理職以上に“適所適材”を実現する
「ジョブ型人事制度」導入

カゴメの人事改革で有沢氏が注目したのは、経営戦略と連動した「グローバル職務等級人事制度」、つまりジョブ型人事制度の導入です。

ジョブ型人事制度のメリットは、自社の経営戦略やビジョンと従業員の職務を連動させやすい点にあります。欧米ではスペシャリストの養成・活躍に使われるジョブ型ですが、有沢氏はこれを日本企業であるカゴメに適した形に変換。管理職以上の各ポジションで何をやるのか、どのようなことが求められるのかを明確にすることで、職務にとって最適な人を選ぶ「適所適材」の人事制度を実現しました。

驚くべきことに、社長や役員も含めた社員のKPI評価シートを社内に公開。各ポジションのミッション・アカウンタビリティと処遇の関係性を透明化したのです。

こうした取り組みは10年先を見据え、2段階で進められました。第1段階では、人的資本経営の土台づくりとして、ジョブグレードや評価基準、コア人材のサクセッションプラン(後継育成計画)、教育体制などを確立。第2段階では、経営ビジョンの実現に必要な人材の定義、グローバルベースのスキルマップ作成などを行ってきました。サクセッションプランでは、社長候補や役員候補の育成にも注力しているとのことです。

「家族と住む」を当たり前にする
従業員の「生き方改革」

カゴメ全体の人事改革と同時に、従業員の「生き方改革」も進めています。2019年以降、日本では多様な人材が活躍できる「働き方改革」が推進されてきましたが、働き方改革は「あくまで会社側の論理であり、従業員個人から見ると『生き方改革』になる」と有沢氏は説明します。フレックスタイム制度や配転の仕組みなどが、従業員それぞれの「生き方」「暮らし方」の変更につながるからです。

カゴメの「生き方改革」は、「会社に使いすぎていた時間を個人に振り向けることで、従業員のより充実した人生を推進」すること。その中には、単身赴任を当然とする日本の労働慣行を見直し、「家族で一緒に住むのが当たり前」という考え方も含まれています。

見直しのきっかけは、有沢氏が海外企業のCEOと話す中で、日本企業が当然と考えている単身赴任について「Punishment(罰)なのか?」と問いかけられたことでした。

介護や育児、配偶者の転勤に伴う勤務地の調整ができる具体的な施策として、「地域カード」も紹介。1回あたり3年間有効で2回まで使えるという“自分で働く地域の意思表示ができるツール”として紹介されました。

「キャリア自律」支援と副業の解禁

従業員のキャリア自律の面では、ジョブ型人事制度におけるKPI評価シートの公開とともに、副業解禁も重要な施策となっています。

カゴメでの年間総労働時間が1,900時間以上の従業員は「働きすぎ」という理由で副業は許可されませんが、それ以外の従業員は雇用契約を結ぶ副業さえ認められています。これには、様々な仕事に本気で挑戦してもらうことで、「自分で自分のキャリアを選択する」というキャリア自律につなげてもらいたいという想いがありました。

2020年には、従業員のエンゲージメント向上に向けた動きも加速。カゴメではエンゲージメントを「信頼感がある環境の中で個々のメンバーが一つのチームとして働き、能力を最大限に発揮して、組織の目標を達成できている状態」と定義し、定期的なエンゲージメントサーベイや成長実感アンケート、ハラスメント実態調査などを通じて定量的に評価・分析し、経営戦略・人材戦略に反映させています。

従業員の多様な価値観、生き方に寄り添うカゴメの離職率は、なんと1.6%。副業解禁によって人材が社外へ流出してしまうリスクが叫ばれる昨今ですが、カゴメでは他業界での経験を従業員に推奨し、自らも魅力的な企業であり続けようとすることで、非常に低い離職率を実現しました。

1時間にわたる率直な質疑応答は
実践的ヒントが満載

有沢氏の豊富な経験に基づく具体的なご説明に続々と質問が寄せられた今回、質疑応答は当社取締役 田中敏志との対談形式で進行。「地域カード」活用上の懸念、KPI評価シート公開に対する上層部の抵抗など、経営層との板挟みに悩む担当者から、多くのの質問が寄せられ、充実の1時間となりました。

セミナー終了後のアンケートでは「目からうろこな内容ばかりでした。今後の人事改革にすごく役に立つと思います。」「エネルギーのある言葉の数々が身に沁みました。」などの感想が寄せられ、人事制度改革に取り組む経営層、担当者にとって大きなヒントとなったことがうかがえます。

今後も様々な業界から有識者の方をお招きし、皆様のビジネスのヒントをお届けします。これまで開催したセミナーのレポート、今後の開催予定については、詳細をHR×LEARNINGスペシャルセミナーの特設サイトにてご案内しておりますので、ぜひご覧ください。また、ご興味のあるテーマやご要望、今お困りのことなど、どんな小さなことでもお気軽に寄せください。

有沢氏のSPECIAL Words あきらめたらそこで試合終了だよ 有沢氏のSPECIAL Words あきらめたらそこで試合終了だよ

あきらめたらそこで試合終了だよ
私が、経営者・人事、若い方にお話をするときには、スラムダンク 安西先生の言葉である「あきらめたらそこで試合終了だよ」という言葉を送ります。私は、スラムダンクが国の教科書になってもいいと思うほどこの漫画が大好きなのですが、この言葉は私だけでなく、日本を越え、世界中の人々を勇気づけたと思います。

なぜこの言葉を送るのかというと、「修羅場」を乗り越えることで、人は成長すると考えるからです。ビジネスの世界では、経営者や人事の方だけでなく、ビジネスパーソン誰しも、仕事をする上で何かしらの「修羅場」に遭遇するでしょう。その修羅場を乗り越えないと、次の場面、次のレベルの仕事ができません。

「挑戦」とは、指示されることではなく、自分自身で決めて行うことが重要です。「大変だな」と思う修羅場に遭遇したとしても、自分で工夫をしながら、時に周囲を巻き込みながら、「挑戦」し続けていただきたいという想いを込めてこの言葉を送ります。(有沢氏)

※全て開催時の情報です