「各業界で活躍されているあの人は何がすごいのか?」をコンセプトに、各業界の有識者から“成長の秘訣”や“仕事論”を赤裸々に語っていただくHR×LEARNING スペシャルセミナー。2023年9月26日開催のセミナーには、オムロン太陽株式会社 代表取締役社長の辻󠄀潤一郎氏が登壇。障がい者雇用の現状や「ユニバーサルものづくり」、採用に向けた取り組みなどを赤裸々に語っていただくとともに、障がい者雇用に課題をもつ参加者からの多くの質問にお答えいただきました。今回のレポートでは、オムロン太陽における障がいの有無を問わない働きやすい環境づくりの事例や障がい者採用のヒントをお伝えします。

日本初の身体障がい者福祉工場
「オムロン太陽」

9月26日に開催したスペシャルセミナーでは、オムロン太陽株式会社 代表取締役社長の辻󠄀潤一郎氏にお話しいただきました。オムロン太陽は、日本初の身体障がい者福祉工場として1972年に誕生。民間企業であるオムロン株式会社と社会福祉法人である太陽の家による合弁会社であり、それぞれの専門性を活かした一体的な運営を行っています。ここ11年間で行った障がい者雇用の職場改善提案は1,500件以上、工場見学者数も年間約2,000人以上など、大きな注目を集める企業です。障がいの有無を問わない働きやすい職場づくりの実現や障がい者雇用など、具体的な事例を交えながら語っていただきました。

障がい者と健常者の同一基準による
評価

オムロン太陽が身体障がい者福祉工場でありながらも初年度から黒字を達成したことは、障がいのある方の大きな自信になるとともに、障がい者福祉工場で利益を出せることを示し、その後の日本における障がい者雇用の重要な先例となりました。

同社は、従業員の約半数は障がいのある方が従事しており、制御機器用ソケットや制御機器用スイッチなどを製造しています。「誰もが活躍できる職場づくり」として、障がいの有無を問わず、それぞれの職業適性に応じた業務に従事すること、障がいのある方の場合は技術と仕組みでカバーした上で、査定・昇格・給与体系は障がいのない方と同じ土俵で評価することを大切にしています。

ユニバーサルものづくりによる
環境改善事例とD&I

オムロン太陽では、身体障がいのある方だけでなく、精神障がいのある方、知的障がいのある方の雇用も進めるため、誰もが使いやすく、多様な特性に対応できる「ユニバーサルものづくり」を進めてきました。

ユニバーサルものづくりには、「ハード(治具/設備)」「ソフト(仕組み)」「ハート(相互理解)」という3つのポイントがあります。「ハード」は、各人の障がい特性に合わせた治具や設備を開発・活用して苦手分野をサポートすること。「ソフト(仕組み)」は、働きやすい環境や体制の仕組みづくりと運用を行うこと。そして、「ハート」は、障がいの有無を問わず、お互いに理解し合い、一緒に課題を乗り越えていくことです。

今回共有いただいた事例には、身体障がいのある方が移動・利用しやすい設備の整備、判断業務が苦手な精神障がいのある方の負担を減らし、業務効率の向上を実現した機器、数を数えることが苦手な方のためのピッキング業務用確認治具などがありました。

他に、従業員の方の体調管理やその日の状態を共有できる「ニコニコボード」も、シンプルながら大変効果的な取り組みです。これは、ホワイトボードに当日の調子を示すマグネットを置いたり、メッセージカードの中から共有したいメッセージを選んで貼り付けるなど、あえてアナログにすることで言葉による発信のハードルを軽減しました。

こうした工夫や仕組みづくりは、もともと障がいのある従業員が活用するために開発されました。しかし、運用する中で、障がいのない従業員にとっても有効な環境改善になることが明らかとなりました。障がいのある方も健常者も共に働けるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の実践と成果であると、辻󠄀氏は語ります。 また、障がいのある方と業務とのマッチングおよび環境改善に役立てる経営指標も考案。自社の業務内容に応じた脳の機能分類(例:退陣、読解、計数など)と現段階で対応可能な工程をマトリックスで示し、対応できる部分を○、対応困難な部分を×で示したもので、評価軸としても活用しています。

障がい者採用は「パイプライン管理」による育成から

障がい者雇用の悩みの1つとなる採用では、隣接する就労移行支援事業所と相互連携した「パイプライン管理」と呼ばれる仕組みを作りました。実習は、入社に必要なスキルの強化などにつなげ、実習受入れ部門も含めた実習評価をもとに、同社の業務に従事できそうな方に入社試験を受けてもらうというものです。
まず、オムロン太陽に設置した実習専用ラインを使い、就労移行支援の利用者が実習を行います。この実習ラインには専用の担当者を配置。職業準備性や職業適性など48項目の評価基準に基づいて評価とフィードバックを繰り返し、利用者のスキルアップや業務とのマッチングにつなげます。

辻󠄀氏は、「障がい者雇用を進めるには、それにかかるリソースを『コスト』ではなく『投資』と考えること、現在ある仕事・やり方を割り当てるのではなく、今の仕事のやり方を変える、という2点がポイント」と指摘。障がい特性に応じた工夫や実習について、新入社員や他業種から入社した社員に対して行う研修や環境整備と同じように「投資」と考える視点の重要性が強調されました。

現場の取り組みや心構えなど、
数多くのアドバイスが送られた
質疑応答

今回、参加者の方々から非常に多くの質問が寄せられました。ユニバーサルものづくりによる環境整備や、障がいの有無を問わず同一基準で評価する際の目標設定、障がい者雇用を行う現場の管理職がもつべき心構えなど、障がい者雇用を進めようとする企業の経営者、人事担当者の方からの質問に、辻󠄀氏は丁寧にアドバイスを送りました。セミナー終了直後も、「“○○しにくい”を改善していくことで、働きやすい職場に繋げられるかもしれない、と前向きになれました。」「障がい者も健常者も誰もが働きやすい環境を整備することがダイバーシティ&インクルージョンに繋がることを知りました。社員がともに力を合わせてその壁を乗り越えていけるような会社となるよう、人事として努力したいと感じた。」などの感想が早速寄せられ、皆さまに大きな気づきがあったことが伺えます。セミナー後のアンケートでは、98%が期待通り・期待以上と非常に満足いただきました。

今後も様々な業界から著名人をお招きし、皆様のビジネスのヒントをお届けします。詳細は、HR×LEARNING スペシャルセミナーの特設サイトにてご案内しておりますので、ぜひご覧ください。

この言葉は、日本のパラリンピックの父である中村裕先生が最初に師事した世界のパラリンピックの父と呼ばれているルートヴィヒ・グットマン博士(ドイツ出身)の言葉とされています。
It's ability,not disability,that counts.
中村先生は、この言葉を「失ったものを数えるな、残されたものを最大限生かせ」と意訳し、展開しました。
countsはこういう場合には文法的には“重要"という意味になり、直訳すると、「重要なのはできることであって、できないことではない」となります。しかし、中村先生は、あえて[counts]=「数える」という意味に翻訳されました。
また、「残されたものを最大限生かせ」という言葉も秀逸しており、これらは障がいを持たれた人の立場に立って考えられた素晴らしい意訳と思いました。
障がいのある方の雇用において、できないことや苦手なことにフォーカスしがちなことがあるかもしれません。しかし、「できないこと」に着目するのではなく、「できること」に目を向けることが大切です。これは障がいのない方にもおいても、同様の考え方ができるのではないかと思います。なので、私の好きな言葉です。(辻󠄀氏)